浦安LOHAS
 
 

2008年11月号


LOHASな浦安には欠かせない生鮮野菜の直売所

全国どこの市町村にも必ずあって、浦安市にだけないものがある。それは「農地」である。その昔、高村千恵子は「東京には空がない」と言ったそうだが、現代の浦安には畑がなく、牧歌的な田園風景は見られない。大地が演出する折々の季節感にも乏しい。そして、LOHASを志向する市民にとって何より寂しいのは、農地が近くにないため、生鮮野菜等の直売所が1つも存在しないことである。

千葉県は北海道、鹿児島に次ぎ、全国第3位(2006年度実績。「野菜」だけに絞ると北海道に次ぎ第2位)の農業算出額を誇る「農業王国」である。アイテム別の生産順位を見ると、ねぎ、大根、にんじん、かぶ、枝豆、ほうれん草、里いも、さやいんげん、バナナ、春菊、パセリ、白瓜、落花生、梨は全国第1位。トマト、キャベツ、トウモロコシ、しょうが、三つ葉、ししとう、そら豆、マッシュルーム、すいか、びわは全国第2位となっている。

農産物は収穫後の熟成等を必要とする一部のものを除き、常識的には、採れたてが一番おいしく、滋養豊富かつ安全である。つまり、本来は「採れたて」のものこそLOHAS向きの食材である。その農産物が有機・無農薬栽培であれば、さらに言うことはない。

「地産地消」という言葉がある。「地域生産・地域消費」の略で、ある地域で生産された農産物や水産物をその地域内で消費することを指す。そのメリットとしては、旬の食材を鮮度が高いうちに味わえるという以外に、地域経済の活性化、伝統的食文化の継承、ひいては郷土愛の育成、コミュニティの醸成などが挙げられる。
また、サスティナビリティ(持続可能な社会を目指し、環境保全を図ること)の視点から、「フードマイレージ」の考え方にも合致している。フードマイレージ(食料の輸送距離)は、重量×距離で示される。生産地と消費地が遠くなると、輸送にかかわるエネルギーがより多く必要となり、地球環境に大きな負荷がかかる。地球の裏側から航空便で届けられるマグロなどは、その最たるものだ。農林水産省が2001年に行った試算では、日本のフードマイレージは世界の中でも群を抜いて大きく、国民1人当たりでは不名誉な第1位となっている。

この「地産地消」の千葉県版が「千産千消」である。千葉産の豊かな食材を、可能な限り県内で消費しようという主張である。最近では、「千産全消」という言葉も目につく。これは全国的に流通していながら、意外に千葉産とは知られていない食材も数多くあることから、今まで以上にPRに努め、全国に「千葉ブランド」を浸透させて流通量を増やそうという主張であり、LOHAS的に見ると「千産千消」とは対立する概念である。趣旨は理解できるが、県庁などが「千産千消・千産全消」を同列に扱い、押し並べて旗を振るのは、いささか悪乗りがすぎる気がする。

そして、「千産千消」の食材をもっとも簡単に入手できる場所が、県内各地の「直売所」である。農林水産部農村振興課が発行している「ちば直売所ガイドブック」(下記のサイトから全文ダウンロード可能)には、195ヵ所の直売所が掲載されている。

>> http://www.pref.chiba.lg.jp/nourinsui/06seibi/tiiki/greenblue/tyokubaibook_h19.html

冒頭にも述べたとおり、残念ながら浦安市内にはない。近隣の市川市にも存在せず、比較的近い場所でさえ、船橋市や習志野市まで足を延ばさなければならない。車があっても、日常の買い物には到底使えない距離である。

大手食品スーパーが「千産千消」コーナーを設けたり、こだわりのある自然食品ショップが有機・無農薬の産直野菜を販売しているような事例は、浦安市内でも垣間見られる。しかし、地元の生産者が朝採れ・今採れの野菜や果物を自らの手で店頭に並べ、自ら値付けも行うような業態は、直売所以外にない。新鮮なだけでなく、流通コストが低い分、圧倒的に安い。同じ野菜や果物でも、生産者が違えば出来には微妙な違いが出る。品質と価格が見比べられ、客に納得されないものは売れ残る。それが、生産者の目の前で毎日繰り返されるため、品質にも価格にも一切妥協が許されなくなる。この好循環が、直売所の最大の魅力である。

また、少量多品種の品揃えも、ナショナル・チェーンの食品スーパー等にはない、直売所独特の魅力だ。食品スーパーなどでは、旬に関係なく、主力野菜が欠品することなど考えられない。しかし、直売所は当日収穫されたものが売り切れてしまえば、補充されることもなく販売が終了する。人気商品など、午前中に姿を消してしまう。それが当たり前だから、どんなに少量のものでも出品できるし、旬の短い商品も一番美味しく食べられる期間に絞って提供できる。食品スーパー等では、輸送に期日を要するため、完熟前に収穫するケースが大半である。一方、直売所に並ぶのは、当然、完熟後の商品。生産者にとっても、消費者にとっても、こんなに幸せなことはない。

有機・無農薬野菜などは手間がかかるため、生産量が限られ、価格も割高となって、一般市場には出回らない。また、一昔前であれば、畑の一部を使って家族のためだけに作っていた「取っておき」の作物なども、一般の流通網にはまず乗らない。しかし、直売所が近くにあれば、高齢の生産者が小遣い稼ぎのために、丹精込めた自慢の農作物をせっせと運んでくる。こうした希少品との出会いも、直売所ならではの醍醐味である。

千葉県を代表する直売所を2つ紹介しておこう。県下最大の直売所は、千葉市若葉区小倉町にある。JA千葉みらいの経営する「しょいかーご」がそれである。売場面積約180坪、年間売上は約10億円に上る。ほうれん草、トマト、きゅうり、小松菜、大根、にんじん、ねぎ、キャベツなどが良く売れ、漬物や太巻き寿司、弁当、総菜、煎り落花生などの加工品、パンや切花、その場で精米する今擂り米なども人気である。

>> http://www.syoicargo.jp/

もう1つは、柏市高田にある「かしわで」。株式会社アグリプラスが経営しており、こちらも約90坪、年間売上7億円以上と規模が大きい。ねぎ、かぶ、ほうれん草、小松菜、枝豆、トマト、米などが良く売れている。周辺には、ららぽーと柏の葉、流山おおたかの森SCなどの大型ショッピングセンターが相次ぎ開業されたが、大きな影響は見られず、むしろ売上は年々増加しているようだ。

>> http://www.kasiwade.com/

「収穫」と「祭」は、どこでも切っても切れない関係にある。これらの直売所でも、季節に応じた様々な播種・収穫イベントや豊年祭のほか、味噌作りやそば打ち、園芸などの講習会を開催しており、最近では子供たちの食育の場としても注目を集めている。そこには生産者と消費者との直接的な交流機会があり、産地見学や田舎暮らし体験、農泊などのグリーン・ツーリズムに発展する機会も生まれている。うらやましい限りである。

何度も書くが、浦安に農地はない。しかし、千葉は農業王国だ。売る場所さえあれば、魅力的な商品には事欠かない。浦安市内に直売所を設けようとすれば、土地の手配は…多分なんとかなりそうだ。千葉県内に見習うべき成功モデルはいくつもある。さらに、県全体で「千産千消」を推進しよう、という力強い動きがある。

残る課題は、県内各地の生産者と浦安を結ぶ物流網の整備である。これさえ実現できれば、巨大な消費マーケットを有し、LOHASの関心も高く、“東京に一番近い千葉”たる浦安市のこと。日本最大の直売所を開設することも夢ではないと思うのだが、心ある企業家の皆様、いかがなものであろうか?

by 鷹羽一風


Copyright© 2008 SUKIURAKAI. All rights reserved.