いとうちひろのエッセイ「ニッポンの会社今昔物語」

最新セキュリティーの落とし穴

私が以前働いていた某メーカーで、すっかり老朽化してしまった工場を壊して、新しい事業所を建築しました。
勿論、改築の際には最新鋭のセキュリティーシステムを採用し、より機密性を高めるべく機能するようになっていました。
この最新のセキュリティーが、どのようになっているかというと……。

業務時間中に建物に入ろうとする時は、一般の会社と同じように警備員さんにエントランスカード(従業員証)をみせればOKなのですが、 居室に入る時は、カードをスキャンしないと中に入ることができません。まぁ、これは当たり前といえば当たり前のことですね。
ただ、この『エントランスカード』にはちょっとしたカラクリがあって、社員であれば自分のエントランスカードならば、 建物内どの居室にも入ることができますが、派遣社員や、外部請負業者社員などの協力会社社員は、自分の居室以外には入ることが出来ないよう、厳密に管理されていたのです。
その他にも、朝一番の居室入室と夜一番最後の居室退出は、社員以外はできないとか、誰がいつどこの居室に入って、そして出て行ったか迄を一括管理しています(実は居室内でちょっとした金銭の窃盗事件が発生したとき、犯人を特定するのに、このエントランスカードの出入室記録が使われた、と風の噂に聞きました)。

そんなセキュリティー管理の一番目新しいことといえば!!

『居室から外に出るときも、エントランスカードをスキャンしなければならない』

と、いうことでした。
引っ越してきたばかりの頃は、
「アレ?開かない?」
とドアをガチャガチャする人がいたものですが、最近は皆慣れたのかそんなこともなくなっていました。

と・こ・ろ・が!!

ある日、居室から直接出入りできる大会議室で、朝から会議をしていたエライ人(多分)が、一旦会議室から出てきて電話に出て、再び会議に戻ろうとして会議室に入る為にエントランスカードをスキャンしても、ドアが開かなくなってしまったのです。

『会議中に途中退出するなって事か?』

と皆一瞬思ったのですが、ときを同じくして、居室の入口のドアをドンドン叩く人がいます。
見るとドアの向こうで
「開けてぇ〜」
と言っているではありませんか!(ドアにはガラスが入っていて外が見られるようになっています)
「スキャンしないと開かないですよ」
と中から言うと、
「スキャンしたけど開かないんだよ〜。カード壊れたかなぁ〜」
と言っています。そう言われて私が居室の中からスキャンしてみましたが、ドアはやはり開きません。
「社員のカードでやってみてください」
と言われて社員がスキャンしましたが、やはり開きません。
「と、閉じ込められた……?(外の人は「締め出された〜!」と言っていました)」
それを聞きつけた他の社員が、素早く他の出入り口をチェックしましたが、やはり開きませんでした。
「マジ!?」
「誰か、電話電話!!」
警備室への電話で、まもなく建物全部の鍵が解除され、無事ことなきを得ることができました。
「あ〜、ビックリした」
等と話していると、しばらくしてまた『カチャ』という音とともに、鍵が開かなくなってしまったのです。
「ま、また!?」
「おいおいマジかよ〜!?」
ざわめく居室内。高まる緊張感……。
この時も警備室へ電話することで、一応事体は収拾しました。
一時的なモノだったのでしょうが、これが有事の時だったら、私達は一体どうなってしまうのでしょう?私の所属していた課の課長等は、
「俺が下痢していたら、どうしてくれる〜!」
と妙にリアルなことを言っていました(確かにそっちの方が、より身近で深刻な死活問題ですよね)。
万全のセキュリティーは『諸刃の剣』なのだ ということを、実感したひとときでした。

次号は5月1日に公開予定です。

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