いとうちひろのエッセイ「ニッポンの会社今昔物語」

ハケンの明暗

つい最近放送が終了した人気番組『ハケンの品格』にあやかって、というわけではありませんが、私の派遣社員生活約4年間のお話等を、今回は書いてみようと思います。

私が派遣社員として働くようになったキッカケは、ちょっと変わったものでした。
短大を卒業した後商社に入社した私は、結婚退職をするつもりはまったくなく、結婚後もそのまま働き続けていたのですが、ちょうど結婚時期と重なるようにして職場の移動があり、会社の中でも最も忙しい部署に転属になったのです。
新居はオットの勤務地の近くでしたので、毎日毎日オットが寝ている間に家を出、オットが寝てしまってから家に帰ってくるという生活になってしまいました。
私のいた商社は、基本的に『残業と休日出勤はサービス』という考え方でしたので、メーカー勤務の技術者のオットにとって、『どんなに働いても残業代も休日出勤代も一切出ない』という状態は理解しがたいものだったし、私もあまりにも忙しいので、
「もう一人一般職(事務職)を増やして欲しい」
と何度もお願いしたのですが、その願いは聞き入れてもらえず、そんな日々が半年過ぎた頃、オットに
「俺は、結婚したのかどうかさえ実感できない。これでは一人暮らしをしていた時と何も変わらない」
と言われてしまい、私もそうまでして働くこともないか・・・と思って、退職を申し出たのです。それが5月。退職希望日は9月一杯でした。
ところが、課長の返事は「せめて来年の3月までいてくれ」。

ジョーダンじゃないよっ!! 死んじゃうってっ!!

9月退職の線で粘ったのですが、それは結局聞き入れてもらえず、粘りに粘って何とか12月一杯での退職ということで決着しました。
10月には引継ぎの社員が配属され、3ヶ月かけて仕事を引き継ぎ、無事円満退職。

はぁ〜、これでやっと人間らしい生活ができるぅ〜。

ところが、こんな平和な日々は長くは続きませんでした。
しばらくは雇用保険をもらいながら、のんびり次の仕事を探そうと思っていた1月末、元の職場から突然電話がかかってきたのです。

「○○さん(ベテラン社員)が、病気で入院することになった。引継ぎをする時間も殆どないので、簡単な業務引継ぎだけですぐ仕事ができるいとうさんに戻ってきてもらいたい」

えええ!? 辞めてから1ヶ月もたってないのにぃ〜!?

と思いましたが、この方は新人の頃大変お世話になった方だったし・・・。うーん。
とはいえ、やっとの思いで辞めた職場に舞い戻るのはやはり嫌だったので、思いつく限りの無理難題(時給や労働条件等)をふっかけてみました。ところが向こうは
「それを全部のんでもかまわない。どうしてもお願いしたい」
というのです。ここまで言われては引き受けないわけにはいきません。
引き受けるにしても、一旦は退職してしまった身。社員として戻るわけにはいかず、ひとまず会社100%出資の派遣会社に登録して、そこから派遣される形をとることになったのです。
「分かりました。引き受けます」
という返事をしてから5分もしないうちに派遣会社から電話があり、
「履歴書を持って明日来てください」
と言われて派遣会社と契約をかわし、その翌日、会社退職1ヶ月もしないうちに元の職場に舞い戻ったのでした。

朝、元の職場に出社すると、見慣れた顔の方々と次々顔をあわせます。
「おはようございます」
とお互い普通に挨拶して通り過ぎるのですが、しばらくするとすれ違った社員の方が戻ってきて、
「あれ?何でいとうさんが・・・? 退職・・・したんだったよねぇ?」
といわれるわけです。そりゃそうです。先月退職する前には、盛大な送別会までしてもらったのですから・・・。人とすれ違うたびに同じ質問をされ、その度に同じ事情を説明し、始業時間とともに、もうすぐ入院しなければならない先輩から、業務の引継ぎを受けて働き始めました。
課と業務内容こそ違うけれど、幸い私は商社の営業部門でやる業務(輸出・輸入・三国間・国内)を社員でいる間に一通り経験していたので、仕事をこなすことはそれ程難しいことではなく、それから入院していた社員の方が復帰するまでの8ヶ月間、元の職場で働き続け、晴れて無罪放免(?)となったのでした。

今度こそ、やってみたかったことをするぞ!!

実は私、オットの働く場所でもあり、商社にいる時に客先であった『メーカー』で一度働いてみたかったのです。
私は、家から近い場所に大きな事業所が沢山ある、某メーカー100%出資の派遣会社に派遣登録をしました。
ここまでずっと働き詰めだったので、仕事内容は『短期契約』を希望しました。すると登録した翌日に派遣会社から電話があり、
「紹介したい仕事があります」
とのことで、またまた休む間もなく働くことになりました。
但し今度は3ヶ月の短期契約。

契約が終わったら休めばいいや。

と思って働き始めたのですが、派遣契約が終わりに近づくと派遣会社から連絡があり、
「紹介したい仕事があります」
と・・・。

あれ?

よくよく話を聞くと『今度の契約は1週間のみ』ということだったので、引き受けることにし、その仕事が終わる前日にまた電話があって、
「紹介仕事があります」
と。

・・・えーと・・・。

取敢えず話を聞くと、契約期間は1ヶ月とのこと。「これが終われば休めるか・・・」と思い引き受けるのですが、その契約が終わる頃に魔の電話が(笑)。
契約期間自体は長くはないので確かに『短期』ではあるのですが、結局ずーっと働き続ける状態になってしまいました。
まぁ仕事自体もそれ程キツクはないし、まぁいいか・・・、と思って仕事をしていたら、以前1週間だけ仕事をした職場から、『1週間だけ来て欲しい』との無茶なリクエストが!
今現在契約している職場がありますから、実際問題として、そちらに行くのは『無理』なのですが、どうやら職場の上の方の方々の間で交渉し合ったらしく、

『1週間だけレンタル(?)』

という、信じられない事態が発生したりもしました(勿論派遣契約書はその労働形態に沿って書き直します)。

『短期契約』という希望の筈なのに、何で契約が途切れないのだろう?

と常々疑問に思っていたのですが、ここで理由がわかりました。
どうやら、職場の上の方で、

「もうじきこの人の契約が終わるよー。確か人探してたよねー?」

というような情報網が飛び交っていたらしいのです。なるほど、そういうカラクリになっていたのか・・・(関心してる場合か?)。
そういうことなら、『短期契約』にこだわっていてもあまり意味はありません。派遣会社に「長期でもいいです」という連絡をしたら、その次は半年契約の仕事がやってきました。
ここでの仕事は、延長延長と順調に仕事が出来ていたのですが・・・。

派遣の落とし穴は突然やってきました。

半年の派遣契約更新の翌日、『会社の業績不振による一般派遣社員全員解雇』という会社の方針が発表され、契約更新は破棄。一ヵ月後に失職することになってしまいました。
半年の契約を更新して、『これで半年は安泰』と思っていたので、まさに青天の霹靂でしたが、会社の方針とあってはどうしようもありません。

働きやすい会社だったので、ここを去らなければならないのは非常に残念でしたが、まぁそれが派遣の運命でもあるわけですから、仕方ありません。他の派遣会社に改めて登録しつつ、社員の道も模索していくことになりました。

まさに『ハケンの明暗』を味わってしまったわけですが、ここの会社で仕事をしている間に沢山の『面白い話』を聞くことができました。
次回からは、その『面白い話』を紹介していこうと思います。

次号は4月15日に公開予定です。

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